企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)は、企業が特定の地方創生事業に寄付を行うことで、税金が控除されるだけでなく、社会貢献やPR/CSR活動に繋げることができる画期的な制度です。ここでは、実際に地方自治体が事業プロジェクトとして立ち上げたもののうち、森林整備やSDGsに関するものを取り上げて紹介します。
○ 北海道厚真町森林再生プロジェクト
北海道厚真町では、平成30年に北海道胆振東部で発生した地震により、3200ヘクタールを超える森林が崩壊しました。森林の再生には長い年月と共に多額の費用が必要となり、プロジェクトに賛同・寄付する企業を募っています。プロジェクトの企画立案に際し、取組として森林被害の全容を把握するための調査、及び森林再生に向けたゾーニングの実施をすでに行っており(植栽を行うエリアや自然回復に委ねるエリアなど)、林野庁・北海道町と共同で植栽の実証試験をすでに終えています。このうち森林再生を人為的に行うとしたエリアについて、被災木の搬出から植栽の実施、定期的な間伐を行い森林資源の回復を図るとして、令和急年度までを集中的に取り込むというプロジェクトになっています。森林再生は森林資源だけでなく、災害時の土砂流出を防ぐため、下流域の災害対策や漁業の観点からも重要となるプロジェクトです。
企業版ふるさと納税で支援することによって、100万円の寄付あたり0.35ヘクタールの森林再生が進むと共に、0.8t/年の二酸化炭素吸収が見込めます。また、企業の持つノウハウ・ネットワークの支援を求めている一方で、企業側の開発中の森林整備技術の試験場所としての活用も受け入れています。企業側は該当プロジェクトに寄付することにより、自治体と連携したCSR活動を実現できる他、カーボンニュートラルに積極的に取り組む企業としてPR・商品宣伝する効果が見込めます。
○ 長野県伊那市 50年の森林(もり)ビジョン
長野県伊那市は、森林資源を持続的に運営しつつ50年語を見越して引き継いでいく、50年の森林(もり)ビジョンを策定し、市民に寄り添いながらの運営を目指して推進委員会を立ち上げています。伊那市の森林を経済・環境・文化・防災など多面的に活用可能な自然資源と捉え、森林と社会の相互作用を大切にする「ソーシャル・フォレストリー都市宣言」を平成28年度に行いました。森林整備の推進はもちろん、地域産材を利用した木塀や玩具、あるいはブランド経木としての利活用、市民が参加しての植樹活動や自然の中での保育など、町全体をあげた様々な活用がされています。また、東京都新宿区と提携し、間伐・下草刈りなどの整備事業を支援してもらうことによって健全な森林を育成し、その活動によって増加した二酸化炭素吸収量を新宿区の二酸化炭素排出量と相殺する、カーボンオフセットが事業として行われています。
他には、伊那から減らそうCO2をスローガンとし、木質バイオマスや水資源・太陽光などの再生可能エネルギー導入を推進し、二酸化炭素の排出抑制を目指しています。薪ストーブの設置に助成金を出したり、ペレット燃料の普及、小水力発電の推進など様々な活動が行われています。それだけでなく、プラスチックごみの削減に向け、エコバッグの普及や自然由来の代替品活用など、市民・企業・行政が一体となって環境活動に取り組んでいます。伊那市はこれら活動の成果報告書を公式ウェブサイト上に掲載しており、施策だけでなく実際の効果について詳細にレポートしています。支援する企業側としてもこうして活動が見える化されていることは判断の基準として扱いやすく、またPRの観点からも好ましいと言えます。こうした点が評価され、伊那市は林野庁より当該事業のモデル地区として採択され、林業成長産業化に向けた取組をスタートしています。
○ 高知県梼原市 森林再生プロジェクト
高知県梼原市は低炭素社会の実現に向け先駆的に挑戦する地域として、全国に先駆けて環境省より「環境モデル都市」の指定を受け、2050年の電力の再生可能エネルギー100%の実現に向け、脱炭素社会化に取り組んでいます。町内の風力・小水力発電化以外に、森林再生・整備をプロジェクト化し、木質バイオマスの地域循環モデルによって再生可能エネルギーの自給率100%を目指しています。森林は大切な財産と位置づけ、それらの恩恵を享受しつつも次世代へより良い環境を引き継ぐ社会の実現に向け、林業技術者の育成や将来を担う子どもたちの学び場作りなどに取り組んでいます。高知県梼原市に支援することにより、こういった低炭素社会・SDGsへの取り組みを間接的に支援することが可能なので、企業PRとしての利用の他、自然食品や自然派美容製品などを販売している企業は商品のPR戦略としても活用することができます。また、珍しいものとして梼原町伝統のアメゴ(アマゴ)養殖を再興・発展させるための養殖事業者の育成や養殖場の整備、商品開発なども事業プロジェクトとして企画されています。こういった伝統産業も寄付を通じて協働できるのが企業版ふるさと納税の利点と言えます。
○ まとめ
以上、企業版ふるさと納税の実際の事業プロジェクトのうち、森林整備やSDGsに関するものを紹介いたしました。この他にも企業版ふるさと納税のプロジェクトは様々な種類のものがあり、間接的な支援によって企業PRに使えるものから、企業側の試験的な設備・技術導入として利用できるものなど多岐に渡ってお互いの利益を生み出すものが多数ありますので、是非参考にしてみてください。